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作るひとの話

心をそっと灯すお菓子作りを / マナミール

柔らかくてほんわかしていてお菓子作りが好きな女の子。
オーガニックな素材にこだわって味わいのあるお菓子を作る「マナミール」白井愛未さんのイメージは長らくそんな感じだった。
でも話をしてみると一瞬でそのイメージが吹き飛んだ。
かなり開けっぴろげで話しやすい、良い意味で大雑把な女の子(笑)
人ってイメージだけで判断しちゃダメなんだな、って改めて気付かされた体験となった(笑)

マナミールのお菓子を私が初めて知ったのは「ものすごく美味しいグラノーラがある」と夫から教えてもらったことだった。
「食べ応えがあって、なんかクセになるんだよね」と言われて見た袋はすでに空っぽだった。(残しといて・・・)
それから私もマルシェなどで出会うと購入し、その噛めば噛むほど味が出てくるお菓子たちのファンとなった。

彼女のお菓子との古い記憶は、子どもの頃。
もともと乳製品が苦手で、甘いものが得意でなかった愛未さんは、誕生日に出される生クリームたっぷりのショートケーキが嫌いだったという。
そんな彼女の好き嫌いを熟知したお母さんが毎年作ってくれていたのは、リンゴのパウンドケーキ。
茶色いケーキにろうそくを灯してくれるのが、嬉しくてたまらなかったのだという。

そこから時間が空き、金融機関で働き始めた会社員時代。
社会人女子たちが頭を悩ませるバレンタイン。
毎年チョコを買っては配っていたが、「今年は手づくりをしてみようかな」とふと思い立ち、自分で作ったバナナのパウンドケーキを小さく切り分けて、職場のおじさんたちに配ってみた。
すると、みんな驚くほど喜んでくれ、それが本当にうれしかったのだという。
これが彼女のお菓子作りの原体験。

そこから休みになる度にお菓子作りをしては人に贈るようになった。
そんな生活を続けるうち、食べ物に関わる仕事がしたいと退職。
新たに働き始めた飲食店へ作ったお菓子を持っていくと、「このグラノーラは商売になるよ!」と絶賛され、心が躍った。

友人と塩づくりを見にいこう!と訪れた「百姓庵」でも、お土産で渡したバナナパウンドケーキを食べた百姓庵の女将さん(カミさん)から
「これは原石よ!あなたお菓子屋さんやった方がいいよ!私オカミールという名前で活動してるから、マナミールにしちゃいなよ!?」
こうしてあれよあれよという間にマナミールが誕生したのだという(笑)
なんと素直でピュア❤︎うまく乗せられるのも大切なのだ。

そこから転職したコーヒーショップでは、店長まで勤め上げ、専属のお菓子工房でも働く機会を与えてもらった。
「コーヒーにはどんなお菓子が合うのか」「こういうシーンでこのお菓子を食べてもらいたい」考えていくうちにどんどんとお菓子のレパートリーが増えていった。

職場で技術を磨きながら、マナミールとしてもマルシェ出店を重ねていき、ファンが確実についていった。
そして2023年。コーヒーショップの社長に「マナミールは一人のものじゃなく、みんなのものになって来たから」と背中を押され、ついに独立を決意した。
マナミールとして大きな一歩を踏み出すことになったのだ。

マナミールのお菓子は素材そのものの味がしっかりと感じられる。
素材に対するこだわりはいつからもっているのだろう。
金融機関を辞めた頃から、自然栽培農法のひよじ村(岩国市周東町)に農業体験に通い始めた。
だが、小麦がカビてしまったり、菜種作りに失敗して一粒も収穫できなかったりと、思った
以上に農作業は大変だった。苦労して作ったのに採れた作物はほんの少し。
この経験が原材料にこだわるきっかけとなる。

「生産者の苦労を知ったことで、素材本来の味を出したいと思うようになったんだよね。
バターを使うと香りも食感もリッチになって美味しいけど、私が作りたい味は、小麦粉の香ばしさとか果物の酸味とかをもっと『素材』をぼりぼり噛み締められるお菓子。
これは乳製品を否定しているわけではなくて、好みや個性、バランスだと思う。
クッキーの固さや、食感、どんなシーンに食べたいかゴールを決めて作ってるから。必要に応じて乳製品を使うこともあるんだよ。」
強い意志をはっきりと言ってのけるのも彼女の魅力だ。

自分自身で「器用じゃないし、お菓子作りもすごく得意なわけではない」と言っていたが、
都内の気になるお菓子屋さんを全て周って同じ味を求めて作ってみたり、気になる素材はメーカーにまで電話して農園の様子を確認したり、さまざまなお砂糖でシロップを何種類も作って舐め比べをするなど、持ち前の研究熱心さで味のクオリティがどんどんと上がっていったのだと思う。

若い頃からオーガニック思考で使っている素材にも、味へのこだわりも強い。
でも、そのこだわりを前面に出すつもりはないのだという。
「食べたら美味しくて、裏の原材料みたら保存料とかいろいろ入ってない!くらいの気軽さを目指してる。世の中には、食べるものにしても、日常で使う生活用品にしても、たくさん選択肢があるから、その選択するきっかけにもなれたらいいな、と思う。」
かつて強く推し進めて人を傷つけた経験もあるから、と話す彼女だからこそたどり着いた考え方なのだ。

今後について聞いてみると、
「山口県は、海に囲まれ山で採れる農産物も豊かだから、もっと地元の農産物を積極的に使ったお菓子も作っていきたい。
あと、台所にあるもので作れるお菓子教室がしてみたい。全粒粉やアーモンドパウダーがなくても、スリゴマとかで代用して作るとか。
お母さんたちがみんなお家のお菓子屋さんになったらいいなと思ってるんだよね」
きっと彼女の心の真ん中には、あの茶色いりんごのパウンドケーキが今も火を灯しているのだろう。

●〇●info●〇●
マナミール

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