夏になれば海を求めて人が集まってくる瀬戸内海に浮かぶ周防大島。その大島にもこんな場所があったのかと思うほど、周りは山だけの景色。
かつて、みかん畑が広がり人の暮らしと一体となっていた山は、今では住む人もみかん栽培をする人も減り、自然に還った畑が佇む景色となった。
そんなのどかなこの地で、農業をしている家族がいる。
夫の中元悠(ひさし)さんと、妻のジョ・シンさん。
何に対しても真っすぐで語り始めると止まらないヒサシさんと、その横でニコニコと笑っている頑張り屋で素直なシンさんの間にはいつも穏やかな時間が流れていて、私にとって会うとほんわかする癒し系家族。
こんなにもこの地の景色に溶け込んでいるのだけれど、二人は周防大島の出身ではない。
2014年、二人はニュージーランドを訪れている。
中国でOLとして経理の仕事をしていたシンさんは、淡々と続く生活にこのままでいいのだろうか、と漠然とした不安を抱えていた。
一方でヒサシさんは各地で働きながらももっと広い世界を見てみたいと、意気込んでいた。そして二人はワーキングホリデーへ挑戦。訪れたニュージーランドで、出会うこととなった。
ニュージーランドでもブドウやキウイといった農業手伝いをしていたが、その当時はまだ手伝いの一環で、「農業をする」という考えに至っていなかったのだそう。
ワーホリが終わり、ヒサシさんは海外での経験を活かして、「いつか宿を経営してみたい」という思いから、大阪で宿泊業に就いたことで、シンさんも来日を決意。日本語学校の傍らインバウンドも多い飲食店で中国語と英語を活かし働いていた。
そんな折り、ヒサシさんは地元山口県柳井市へ帰省。
柳井市は周防大島からもほど近いことがあり、みかん畑も多く栽培を手伝うように。
その働き方は、ヒサシさんにとっての理想とする「家族とそばにいられる」ワークスタイルに近く、農業への想いが強くなっていく。
みかん農家が自営で始めやすかったこともあり、ヒサシさんはシンさんを連れて周防大島へとやってきた。
二人が出会ってから5年経った2019年4月。彼らはみかん農家となった。
屋号は「桂橘農園」とした。少し文化的な匂いを感じるが、意味はなんなのだろう。
「’桂’というのは金木犀のことなんです。妻が中国の杭州出身で、杭州の花とされているのが金木犀。そして’橘’はみかんの花。周防大島の花と言われています。杭州と周防大島を結ぶ、そんな農園でありたいと名前をつけました」
うーむ、素敵!二人にしかつけられない名前だ。
ところで、中国から日本の小さな島に移住し、みかん農家として就農、日本での出産と、考えてもいなかった生活に、シンさんは不安はなかったのだろうか。
「中国の家族は大好きだけど毎年帰っているし、お母さんも日本に遊びに来るから大丈夫!岩国にある錦帯橋は杭州の西湖の橋がモデルって聞いて、繋がってる!って思ったよ」
と笑うシンさん。
シンさんと話していると心が温かくなる。ヒサシさんが周防大島まで連れてきた気持ちがよくわかる♥
宮本常一という周防大島出身のフィールドワークをし続けた民俗学者がいる。
彼は生前、「自然は寂しいけど、人の暮らしがあるとあたたかい」という言葉を残している。
“人の暮らしと自然が一体となった景色を残したい”
宮本常一の言葉を胸に、ヒサシさんは農業に向き合っている。
かつてはみかん農家が増え、斜面には多くのみかんの木が植えられていた。
しかし、兼業みかん農家が多く、放棄されることも多かった。
そんな歴史にふれ、自分の後のことまで考えながら育てていくことが必要なのだと感じたヒサシさんは、できるだけ耕作放棄地を解消したいと熱く語る。
だが、それは一人ではできない。
だからそれを“楽しめる人”を増やしたいのだと。
畑を広げて生活を安定させれば、「周防大島でみかんをやれば儲かるらしい!」というスタイルを見せることができる。そうすれば、就農や雇用に繋がって行くのではないだろうか。
その想いで突き進んでいる。
みかんやお米の栽培方法も、より美味しくなる方法を試行中。
もっともっと美味しく、自分を納得させられるよう、常に勉強を続けているのだそう。
桂橘農園はみかんだけでなく、加工品も作っていて、人気のみかん甘酒は、お米とみかんを育てている桂橘農園ならではの商品。
ほんのり甘く酸味のあるみかんが、お米の甘さと合わさると飲みやすい甘酒に。
そのまま飲んでも美味しいけど、わたしは今年の夏はみかん甘酒シャーベットにして食べるのにどハマり❤︎
簡単で美味しくて、美容・健康にもいいって嬉しい❤︎❤︎❤︎
二人にはまだまだ夢がいっぱい。
日本ではまだあまり手に入らない、「マコモダケ」や「キニラ」など中国でポピュラーな食材作りにも挑戦してみたいそうで現在模索中。
また、シンさんが語っていたので印象的だったのが「金木犀のシロップ」。
杭州では金木犀の花びらや花びらから抽出されたシロップを料理にかけたりと金木犀を食用として楽しむのが一般的という。この「金木犀のシロップ」作りもまた夢の一つ。
2023年に新しく作った直売所にも夢が詰まっている。
販売だけでなく、子どもたちの未来に“みかん農家”が選択肢の一つとなるようにと体験に終わらないみかん狩りも少しずつ始めている。
自宅に伺うと玄関の入り口には「ようこそ」と中国語で来訪を喜ぶ言葉が。
そう、宿泊業への夢も抱いているのだ!
3か国語を話せる二人が受け入れられるのは、国内だけでなくもちろん海外からのお客さんも!
今でも大学生や留学生の民泊受け入れなどもしているそうで、お客さんとお互いの文化や考え方をシェアすることで刺激を受け合っている様子が二人の楽しそうな口調から伝わる。
ヒサシさんとシンさんが語るたくさんの夢は、常により良い未来を見つめて、グローバルに広がっている。
二人の見る夢が一つずつカタチになっていくことが、楽しみでならない。
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桂橘農園
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